行きたいところに行けるようになった。

実家は県庁所在地の駅から車で15分、そう遠くはなかった。田舎にしては便利な方だが、終バスは19時半。高校時代はクラスで学園祭の打ち上げがあったり友達とディズニーに行ったりする、みたいな時以外は親に気を遣って終バスに乗れるように生活していた。帰る時間に気を使わなければいけないことは、とても窮屈なことだと思っていた。
大学に進学し、東京に住みはじめた。急行が止まる最寄り駅、終電は大きな駅から0時45分。誰にも迎えに来てもらわなくても今では終電があるとはいえ何時にでも帰れるという心の余裕が生まれた。と、同時に余裕というのは隙間でもあった。隙間は塵も積もれば山となり、たまに大きな穴となってしまう。部屋の鍵、開けて実家よりも幾分も狭い空間、電気はもちろんついていない。最寄り駅から帰る途中、バターを熱する香りがふと。去年、夕ご飯がオムライスだった日の香りがして、したとしても家に帰ると電気はついていない。わたしが後から帰ってくるのをわかっていてわざと鍵を閉めてしまう弟もいないし、部屋の鍵はいつもわたしだけがまわすものである。でも、実家に住んでいないからこそ実家に帰りたくなってしまうこともちゃんとわかっています。